昭和が好きなんだから仕方がない

なんだか最近は『昭和』のブームらしい。
ただ郷愁を感じるだけではなくて、どことなく呑気でどことなくギラギラしてて、そしてどことなく人間くさいあの時代に何かしらの人を惹きつける魅力があるのだろう。
ちなみに昭和の呑気で汚くてギラギラしてる感じはミーは好きだ。いや大好きだ。
ただ、今タイムスリップして昭和の町中に行けばあまりの汚さと騒々しさに辟易すること間違い無し。昭和に強烈な思い出補正フィルターがかかっていることは自覚もしている。でもやっぱりあの『憎みきれないろくでなし』の昭和が好きだ!

好きなもんだからヤフオクで昭和なものを手に入れてみたりする。
4年ほど前にはヤフオクで車まで落札してしまった。ヤフオクで?車?正気かよと自分でも思うがそんな趣味性の強い車なんて身の回りには絶対に売ってないから本当にその車が欲しければ『エイヤッ!』と買ってみるしか無い。リスク山盛りで。
さてそんな大昔の車(昭和43年式)なんかにはエアコンなどの気の利いた装備なんてあるはずもなく、窓全開で走らないと涼しさを感じられない。それじゃぁ温暖化がバリバリ進む現代ではもうリアルに死んでしまうかもしれないので、ささやかながらウチワを装備することにする。

でもせっかくだから本当に昭和な、当時もののイカしたウチワが欲しいじゃないか。
そう言えば『有限会社 漂流岡山』の事務所も出荷センターの倉庫内にあるためかエアコンの効きがあんまし良くない。そこで事務所用にもウチワを探すことにする。
ではどれどれどっこいしょ、ヤフオクを開いて昭和なウチワを探してみましょうかね。
どうせそんなに『ウチワ』なんて無いだろうと思ってたら・・・あるよ山のように。
700点とかあるわ。昭和のウチワ。しかもどれもなかなかの力作揃い。手の込んだイラストがウチワの全面に印刷されているのがたくさんある。
なんでこんなに豊富にウチワがあるのかと考えてみたら、なるほどウチワの裏面には魚屋や八百屋、商店街なんかの名前が『暑中見舞い』の言葉を添えて印刷されている。
そうかそうか、これはあれだ、今みたいにインターネットなんてない時代にお客様に自分の店の名前を覚えてもらうためアンドお客さまに感謝の気持ちの実用品として配ってたんだ。と言うかこの自分の店のPRを兼ねたウチワぐらいしかプロモーションの手段がなかったんだ。

そうとわかればかなり豊富にある青果店、いわゆる八百屋のウチワでミーの心にグッとくる逸品を探す。
何点か候補がある中で選んだのがコレ。
落札価格700円。安い!
出品者さんもいい人でやり取りもスムーズ。すぐに手元に届きました。
当時のウチワをよく見てみれば、当時の女優さんを明らかにイメージしたような女性がニッコリ笑っているパターンが多い。今回落札したウチワもショートカットの美人さんがハカリにスイカを置いている。
この人は店員なのかお客なのか。
エプロンなんかの見た目を見ればお客っぽいけどお客が自分でハカリにスイカ乗せるか?ひょっとして最近イオンなんかでやってる量り売り?ミニトマトかなんかの。いやそんなわけないだろう。
おそれくこれはあれだ、この女性は見た感じでどう見てもお客なんだけど、『ハカリに誰が乗せるか?』
ではなくて『ハカリを使うほど公正で正直な店だ』を伝えたいのではなかろうか。
つまりあれだよ中野京子さんの『怖い絵』みたいなもんで、そこに書かれているものが必ず何かしらの暗示になっているんだよ。
西洋美術と商店街のウチワを同列に語るのはどうかとも思うけど、やってることはいっしょ。いかにその一枚の絵で言いたいことやその背景を伝えるか。
話しウチワに戻すがこのお客さんが自分でハカリに乗っけてるのは『公正で正直な八百屋です!』と伝えたいからに違いない。

ほかを見てみよう。
右上にはいかにも『高級なフルーツも扱ってますよ』と籠盛りフルーツ。その横にはなんとも中途半端な大きさで『新鮮な野菜 果物 勉強する店』と看板が。
この文字、壁の角度に合わせてやや斜めになっていることから壁に書いている体だけど、これも先ほどのハカリと同じ、ウチワを見ている人へのアピールだろう。うちは『新鮮な野菜 果物 勉強する店』ですよと。
それにしても『新鮮な野菜 果物』はともかく『勉強する店』とは。
この『勉強する店』、店主が夜学で『勉強してます』ではなく、店の女将がシニア野菜ソムリエの資格をとるために『勉強してます』でもない。
そうだよなぁそれこそ昭和な表現だけどこの『勉強します』は『値引き交渉受け付けます』ってことだ。
昔はアジアの市場みたいに商店街でも値引き交渉してたんだよね、日本も。『奥さん今日も綺麗だね、いつも来てくれるからキュウリもおまけしちゃおう』的な日常会話が消費者から敬遠されるようになって定価販売で安い大型量販店(ダイエーなど)にお客さん取られちゃったんだ。
うちわの絵でいろいろ世相を感じるもんだね。
売ってる野菜果物を見てみれば、右上から下にピーマン、男爵、人参、大根、トマト、さつまいも、丸なす、キュウリ(?)、かぼちゃ、うり(?)、スイカ、バナナ、メロン。野菜に関しては果菜類と土物ばっかりじゃねぇか。葉菜類一切なし。
これは露天の店頭で冷蔵陳列でも当然なさそうだから当時の品温管理で言って葉菜類であるほうれん草とか小松菜とかは一般的な八百屋では売っていなかったのだろうか?そんなことはないとは思うが。

さてそれでは裏面を見れば、このウチワを配っていたお店の名前がしっかりと書いてある。
『暑中御伺ひ 青果食料品 マルヤス商店 細江町片町』と。
どこだコレ。細江町?岡山じゃないよね、少なくとも。
こんな時には心強い味方、インターネット様で調べてみる。
細江町とあるのは全国で静岡県と山口県の2箇所。
細江町片町となると・・・あったあったありました。静岡の方だ。
2005年に合併して浜松市になってるけどそれまでは細江町。
では片町はどうか。細江町自体がなくなってるので当然今は片町もなくなっているんだけど、調べてみれば・・・静岡のバス、遠鉄バスの旧細江町の停留所に片町ってのがあるじゃないか。さらにその停留所の東40メートルに『マルヤス食料品店』が今もあるじゃないか!名前がちょっと違うけど、たぶん同じ店だよ。
もうおそらく今は『勉強(値引き)しない店』になっていると思うけど、おそらく50年は変わらず細江町の人達に愛されているであろうマルヤス食料品店。もう他人とは思えません。

ヤフオクで手に入れたこんな小さなウチワにも、ちょっとしたドラマがあるのね。
そんなマルヤス商店のウチワでパタパタあおぎながら清水白桃の出荷作業をしているのです。